映画『赤い靴』(DVD)

赤い靴 特別版 [DVD]

赤い靴 特別版 [DVD]

1948年エメリック・プレスバーガー, マイケル・パウエル
アントン・ウォルブルック, アントン・ウォルブルック, モイラ・シアラー, マリウス・ゴーリング

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名前は知っていたし、名作だということも知っていたけれど、なんと今まで見たことがありませんでした。


1948年イギリスで制作された、バレエ映画の金字塔。
アンデルセン童話「赤い靴」をモチーフに、バレエに生きるか愛に生きるかという葛藤を描いている。
後世のバレエ漫画等でもよく引き合いに出されるこの映画、それはヒロインのヴィクトリア・ペイジ役のモイラ・シアラーの、現実世界での悲劇とのリンクである。この映画の主役に抜擢され、一躍有名になったモイラ・シアラーは、実力と名声とのギャップに悩み、ダンサーとしての道を早々に諦め、愛を選び、結婚して家庭に入る道を選んだと言われている。
ヴィクトリアの劇中での悲劇と、モイラのダンサー人生の失敗とが、結びつけられて語られることしばしば。


上記の点でよく名前を聞く「赤い靴」であるが、映画の内容、ストーリーはこんな感じである。


レルモントフ氏率いるレルモントフバレエ団にダンサーとして入団できた、ヴィクトリア・ペイジ。時同じくしてレルモントフ氏に雇用された若手作曲家ジュリアン・クラスター。2人はそれぞれ、新作「赤い靴」の主役、作曲家に抜擢される。「赤い靴」公演の大成功と同時に、ひかれ合う2人。そのことに気付いたレルモントフ氏は「バレリーナに必要なのは踊りへの情熱だけであり、他のことに気を逸らしていては成功できない」と、2人に別れるように言い渡す。
ジュリアンはバレエ団をあっさりと辞めるが、苦悩するヴィクトリア。しかしジュリアンについて行くことを決心する。踊れない日々が続き、煩悶するヴィクトリア。そこへレルモントフ氏が「赤い靴」の再演を持ちかける。
いよいよ再演の日、楽屋にジュリアンが飛び込み、自分と踊り、どちらを取るのかと詰問する。諦めて出て行ったジュリアンを追いかけ、楽屋を飛び出すヴィクトリア。足には赤い靴。彼女が飛び出した先は・・・。


アン・ハッピーエンドのこの作品。
なんと言っても見所は、劇中劇「赤い靴」。今上演しても面白いだろうと思う。赤い靴を売る奇妙な靴屋役は、レオニード・マシーン。そう、あのバレエ・リュスのマシーンである。彼の踊りは「ペトルーシュカ」のような、奇妙でどこか物悲しく、モイラ・シアラーを引き立ててあまりある存在感を見せている。
モイラ・シアラーの踊りも素晴らしい。とてもフレッシュでのびやかで、彼女が名バレリーナとして名を残さなかったのはなぜだろうかと疑問に思う。それはやはり、バレリーナとして生き残るには、踊りが上手い、だけでは足りないということではないだろうか。踊りの優劣以上に、必要なものがある、ということ。ダンスを一生続けていくということに対して、必要な何かがあるのだろう。


1970年代、80年代のバレエ漫画にはこの「赤い靴」の引用が多数見られ、バレエダンサーの生き方、というものの示され方に対して、多大な影響を与えた作品であることは間違いない。