革命バレエ『紅色娘子軍』観劇

以前『毛沢東のバレエダンサー』に絡めて革命バレエ『紅色娘子軍』のことを少し調べたことがあった(→過去の記事)が、ついに生で見る機会を得た。

2011年3月9日 19:30開演
於:北京天橋劇場
出演:中国中央バレエ団
三・八国際労働婦人節及び中国共産党建党90周年記念公演
『紅色娘子軍


天橋劇場は天壇公園の西にあるバレエ専用劇場で、中央バレエ団はここを本拠地としている。『紅色娘子軍』の感想を一言で言えば、素晴らしく完成されたエンターテイメントバレエ!である。正直ここまで楽しめるとは思っていなかった。


あらすじ

1930年代。海南島の万泉河一体の椰林寨 (現在の瓊海市)で、国民党につながる反動地主・南覇天から暴行を受けた下女、呉瓊花はジャングルに逃れ、そこで共産党員、洪常青と出会い、その指導で紅色娘子軍というゲリラ部隊に参加する。一度は拙速な作戦で南に逃げられ、損失をこうむるが、私怨による報復でなく農民を反動地主から解放するという大義に目覚めたことから、ついに南を捕らえ、処刑することができた。そして娘子軍共産党の主力部隊と合流し、南ら地主勢力を一網打尽にすることに成功。呉は娘子軍連隊長となった。(Wikipediaより引用)

退屈させない演出

そもそも文化大革命の時期に民衆へのプロパガンダとして作られた演目なので、分かり易く、飽きさせないように作られている。テンポがよく、場面転換が多い(全6場)。踊り手の技術の高さもさることながら、京劇や中国武術の要素を取り入れた振付けもあり、見る目に楽しいというのも大きい。とりわけ印象深かったのは、テーマソング「紅色娘子軍連歌」が流れた途端、隣の席の老婦人がその歌を口ずさみ始めたことである。観衆の認知度の高さは、その歌や歓声、拍手のタイミング(見どころを知っている)から感じられた。

クラシックバレエのような構成

改めてその構成を見てみると、まるで『白鳥の湖』などの古典主義バレエのように作られていることがわかる。とらわれたり戦いに行ったりという流れは、『海賊』に似ているところがある。第三場、富裕な反動地主の家の場面で奴隷の娘たち(少数民族の彝族)による踊りの場面があるが、これなんかは西洋古典バレエにおける民族舞踊のディヴェルティスマンに相当し、オリエンタリズムならぬ少数民族のエキゾチスムで、作品に華を添えている。但し大きく異なるのはロマンティックな部分、つまり恋愛要素を完全に抜きにしていて、代わりに共産主義思想教育を軸としている点である。コールドバレエによる勇ましい群舞があり、また男女のパ・ド・ドゥは戦いの場面であったり問答の場面であったりする。

印象的なシーン1:糧食の分配

第3場、第4場では、収穫されたり反動地主から奪い返したりした農作物を、群衆が分け合って祝うシーンがある。いずれも共産主義のすばらしさアピールだが、収穫を祝う農民たちの群舞、というと『ジゼル』や『リーズの結婚』なんかの農夫たちと村娘たちの踊りを思いださせる。

印象的なシーン2:ヒーローの処刑

第6場、ヒーローである洪常青が捕虜となり処刑されるシーンがある。しかしそこにあるのは悲壮感ではなく、決して屈しない紅軍の心意気の体現である。洪常青は捕まるも抵抗し、時には敵方を圧倒しつつ大義を貫く。最後は用意された火刑台に自ら登り、固く握った拳を天に突き上げたポーズで火の海に囲まれる。このとき、客席からは大きな歓声と拍手、そしてスタンディングオベーションが起こった。こっちはその観衆の反応にびっくりした。

印象的なシーン3:戦闘シーン

後半は戦闘シーンが増えるが、赤と暗めの照明、音響で銃撃戦の激しさが演出される。特に印象的だったのは、照明を落とし舞台上手前からと下手後ろを斜めにサスで照らし、その線状を兵士が高速グランパドゥシャで横切る、というもの。すぐに思い浮かべたのは『エチュード』のグランジュテのシーン。大きく違うのは、兵士たちは小銃を構えていて銃声が轟いている、というところだが。(下記写真は違う場面)


私の知る限りDVDは古いものしか出ていないので、ぜひ再撮影してほしい。最近のダンサーのレベルでの映像があればと思う。古いのも趣があっていいのだが、今のスタイルの良いダンサーたちが踊ると、これまた格別である。また「革命」の演出や昔はいかつかったメイクも、かなりスマートになっている。とにかく思った以上に楽しめた。留学中にまた上演があれば、ぜひ見に行きたい。